匂い惚れから始まる愛され生活は……(前編)

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 その時、周りの空気が変わって、周囲から小さな歓声のようなものが湧き上がった。 「見て、エンジェルズだよ」 「二人が一緒なんて、眼福」 「可愛すぎー! こっち見てくれないかな」  その呼び名を聞いた俺は、ごくりと唾を呑んだ。  食堂の入り口から軽やかな足取りで歩いてきたのは、男がハニーで女がベリーという名前の、一年Bクラスに所属する男女双子のオメガだ。  俺はリザベルトが匂い惚れしたなんて言ってきたのを、ありえないと跳ね返したが、本当は何とも言えない苦い気持ちだった。  この学校に入学した日、俺は廊下ですれ違ったベリーちゃんに一目惚れをしたのだ。  双子は二人ともよく似ていて、色白で金髪のお人形みたいな顔をしていた。  ベリーちゃんは、ハニーよりも甘い顔をしていて、ふわふわの波打つロングヘアーをしていた。  すれ違った時に、ふわりと微笑んだ顔が心臓を突き刺されたような衝撃だった。  ドキドキしてその場から動けなくなったほどだった。  入学早々、恋をしてしまったかもしれない。  授業中も胸が苦しくて切なくて、ベリーちゃんの笑顔を思い浮かべると、また会いたくてたまらなくなった。  放課後、廊下を歩いていると目の前をあのベリーちゃんが歩いていて、なんとポケットからハンカチを落としたのだ。  これはお近づきになる千載一遇の大チャンス!  震える手でハンカチを拾った俺は、ベリーちゃんに声をかけた。  俺の声に反応して振り向いたベリーちゃんは、友達と話していたので最初は笑顔だったが、俺のことを見るなり顔を歪めた。 「……あの、これを……」  ベリーちゃんは俺のことを知っていたのか分からない。  ただ少し話せたらなと期待を持って、ハンカチを差し出した。  しかし俺からハンカチを引ったくったベリーちゃんは、強肩をしているのか物凄い豪速球でハンカチを近くのゴミ箱に投げ捨てた。  フン! っと鼻息荒く俺を睨んだ後、ベリーちゃんはドスドスと足音を立てて行ってしまった。  俺の初恋があっという間に散ってしまった瞬間だった。  ということで、あの双子、特にベリーちゃんに近づいたら、また嫌な顔をされたら困る。  俺は後退りをしてから背を向けた。  なるべく二人から距離を取ろうと奥の方へ行くことにした。
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