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何しろ周りは頭も容姿も優れた完璧な人間達の世界だ。
そんなところに、ひたすら地味な男がいたら、そう思われても仕方がないのかもしれない。
両親はお互い厳しい家に育てられて、子供の頃に家を出て、車に乗りながら生活してきた。
まさに自由人カップルだったので、ベータの俺を見て驚きはしたが、次の瞬間には歌って踊って、大喜びしたらしい。
俺がハズレくじのようなベータとして生まれても腐らなかったのは、この明るい両親のおかげだと思っている。
ということで、生まれてからほとんどを、両親と車に乗って移動しながら暮らしてきたわけだが、ここに来て学校に行けと言われることになった。
俺が十六の誕生日の朝である。
「もう入金したってどういう事だよ! 義務教育用の学習はとっくに完了しているし、どうしてわざわざスクールに行く必要があるんだよ」
朝食のコーンフレークを、ミルクと一緒に口に流し込んでもぐもぐしていたら、突然母親のミラから告げられた言葉に、全部噴き出しそうになって慌てて飲み込んだ。
ゲホゲホとむせながら、なんとか問いただすと、ミラはあっけらかんとした顔で、だってお友達が必要でしょうと言った。
「セイくん、生まれてからずっとこのオンボロで旅しているし、まともに同年代の子と接したことがないじゃない」
「そっ、そんなの……、オンラインでゲーム友達いるし……」
「それが問題なんだよねぇ。人付き合いってモンは、ちゃんと顔を合わせないと分からないこともあるし。それに一番大事なこと、せっかくの青春真っ盛りに恋ができないでしょう」
キッチンスペースから、焼いたパンを皿に載せて持ってきたのは、もう一人のママであるアリッサだった。
ちなみにバース性は、ミラがオメガで、アリッサがアルファだ。
「恋!? 俺が? 無理無理、俺なんて女の子になんて相手にされないよ。旅先でも散々無視されたの見てきただろう」
アルファとオメガってやつらは、常に自分のフェロモンを微弱に纏っていて、お互いのバース性がすぐに分かってしまう。
つまり無臭の俺は、どこに行ってもベータだとバレてしまう。
最近立ち寄った町でも、女の子に声をかけたのだが、すぐにベータだとバレて声かけないでくれない? と冷たくあしらわれてしまった。
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