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「セイジュ!」
「セイくん」
「セイー」
一斉に色んなあだ名で呼ばれてしまい、どこを見て誰に返事をすればいいのか分からなかった。
戸惑っているうちに、痺れを切らした一人が俺の腕を掴むと、反対側からもう一人、後ろからもう一人が背中を掴んできた。
「ちょっと! セイくんは今日私とお昼を食べるの!」
「いや、俺だよ。なぁ、セイジュ」
「セイ、今日は僕と食べようよー」
逃れようと視線を運んだ先でも、待ち構えるように声をかけて欲しいという顔でニコニコしながら立っている連中が見えて、俺は絶望的な気持ちになった。
「あのさ、今日は一人で食べたいな……なんて」
俺が眉間に皺を寄せてそう言うと、一斉にみんな泣き顔になってヤダヤダと騒ぎ出した。
本当にコイツらアルファなのかと、詐欺にでもあっている気分でしかない。
「ほら、セイジュが困っているだろう。みんな自分の席に戻って」
パンパンと手を叩く音が聞こえて、天の助けが来たと俺は顔を上げた。
オレンジの髪に水色の瞳という派手な顔立ちで背が高い男は、クラス長をしているラリックだ。
この学校に入学して一ヶ月、彼のおかげでこのおかしな世界にどうにか慣れることができた。
ラリックは効果的な抑制剤を開発して、今では誰もが知る大企業となった製薬会社のご子息で、このクラスの中でも頭一つ抜き出た影響力がある。
そのため、ラリックの言うことにはみんな素直に従っている。
階級社会というとは謎に包まれていたが、ようは親の権力が子供にも影響していて、非常に分かりやすかった。
ラリックが派手な男なら、俺は正反対に地味な男だ。
今では珍しくなった黒髪に黒目、かつてのアジア系を祖先に持つとされているが、世界的にあまり好まれない容姿だからか、圧倒的に数が減ってしまった。
背はそれほど高くないし、ガリガリで筋肉と呼べるものもない。
顔は母親達に似て優しい顔立ちと呼ばれるが、ベータの地味さが前面に出ていてる。
ラリックと並ぶとひどく劣っている気がして小さくなってしまった。
しかしこのクラス、見渡せば見渡すほど、男も女も全員彫刻のように整った美形ばかりで、目がおかしくなってしまう。
ミラやアリッサも綺麗だったが、そんなものではない。
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