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二十七話
「ヴァルタル様」
馬車が止まり、カーテンを開けるとアンブロワーズ家の屋敷前だった。何時もなら直ぐに立ち上がり、馬車を降りるが何故か身体が動かない。
「どうした」
「あ、あの……」
言えない、離れるのが寂しくて仕方がないなど子供染みた事を……。
「ルーカス様達は、どうなったのでしょうか……。それにどうしてヴァルタル様はベアトリス様と……」
誤魔化す様に気になっていた事を聞いてみた。ヴァルタルとの二人の時間に水を差したく無く敢えて黙っていたが、あのロルフという青年の事も気になっていた。
「君には心配をかけたくなくて黙っていたが……」
ルーカスとベアトリスと出会したあの夜会の数日後、ベアトリスから手紙が届いたそうだ。その内容を聞いて驚いた。
『オービニエ侯爵家で開かれる次の夜会に出席下さい。大切なお話がございます。尚もし出席頂けない場合には、貴殿の大切なセシリア様に危害が及ぶ可能性がございます。賢明な判断をされますよう……。追記セシリア様には内緒にして下さいね』
「目的が分からなかったが、君を危険に晒す事だけはしたくなかった。何かの罠だとは思ったが、取り敢えず相手の思惑に乗る事にしたんだ。ロルフは俺と同じ騎士団員で、念の為協力をして貰った。ただ君が広間に現れた時嫌な予感がした……」
ヴァルタルはベアトリスがセシリアに何かするのではないかと、早々に広間から連れ出したそうだ。そしてロルフが待機していた部屋に誘導したという経緯だったらしい。
「ベアトリス嬢は元々俺を休憩室に連れて行く予定で、彼女と俺が浮気している様子を君に見せようとしていた」
「私とヴァルタル様を別れさせる為に、ですか」
「あぁ、それで自分は俺の妻の座に収まろうという魂胆で、ルーカスはルーカスで君と復縁をしようと考えていたらしいな」
セシリアは眉根を寄せる。浮気してまで好き合って一緒になったのに、あんなに莫迦にした女と今度は復縁したいなど、意味が分からない。
「私にはあの二人の考えが理解し兼ねます」
「それで良いんだよ、君はそんな下らない事に頭を悩ませる必要はない。後の事は俺に任せてくれていい」
◆◆◆
オービニエ侯爵家での夜会の日から半月後。ヴァルタルとセシリアは遂に婚約をした。そしてヴァルタルの強い希望により、既に半年後には婚儀を執り行うと決まった。
「おめでとう、ヴァルタル」
「あぁ、ありがとう。だがまだ油断は出来ない」
少しゴタついたが、ようやく落ち着いた。だがまだ婚儀までは半年もある。本当なら今直ぐにでも彼女と結婚したいが、準備もあるし親等も煩いので仕方なく半年後になった。
「いや流石に警戒し過ぎじゃないの?ルーカスやベアトリス嬢の件も片付いたんだしさ」
あの後ヴァルタルは、ベアトリスの生家であるグラッセ伯爵家に脅迫文と取れる手紙に関して、正式に抗議をした。ベアトリスは頑なに認めなかったが、筆跡鑑定をして彼女のものだと分かると、今度はルーカスに脅されたと騒ぎだし、フェリエール侯爵家を巻き込み話し合いになった。ルーカスはシラを切り通していたが、ベアトリスが徐に肩からドレスをズラし、身体の痣を見せ「ルーカス様に乱暴されました」と言い出し事態は収束をした。
ベアトリスの主張は認められたものの、無罪放免とはいかず彼女は二回り以上年上の田舎貴族の男に嫁ぐ事になり、ルーカスはフェリエール家の名誉を傷付けたとして勘当され屋敷を追い出された。家督は弟が継ぐそうだ。
「それはそれだ。彼女はあんなに魅力的な女性なんだ。いつ誰が狙っているとも限らない」
ヴァルタルは至って真面目に話しているのだが、ロルフは肩をすくめく呆れ顔をする。
「君とは長い付き合いだけど、こんな面倒臭いタイプだとは思わなかったよ。セシリア嬢に同情するね」
「なんとでも言え」
自分で言って更に心配になってきた。これでは例え結婚し夫婦になっても悩みは尽きないかも知れない。
「彼女を護るにはどうしたらいいんだ」
ヴァルタルが大きなため息を吐くと、その隣でロルフも同じ様にため息を吐いた。
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