わたしとあなたのおいかけっこ

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 朝の駐車場に、わたしたち三人の楽し気な笑い声が響いた。 「あぁそうだ、美佐江。今日も残業で遅くなるから、晩御飯はいらないよ」 「そうなの。わかりました。遅くまでご苦労様です」 「先に、寝ていて構わないからね」 「ええ、そうさせていただくわ。――じゃあ、田村さん、今日も主人をよろしくね」 「はい、畏まりました」  真っ赤な唇を微笑ませ、田村さんは恭しくお辞儀をしてくれた。  わたしは自転車に跨ると、二人に手を振って駐車場を出た。  自転車を漕ぐと、汗をかいた体に風があたって心地いい。  さぁーて。帰ったら、今度こそお楽しみタイムだわ!  わたしはちらりと背後を見た。  もうわたしには見えないと思った夫と田村さんが、熱く見つめ合っているのが目に入った。  あなたはわたしが何も知らないと思っているでしょうけど。  わたしは前に向き直って、爽やかな朝の風を吸い込んだ。  働き方改革だか改善だかで、水曜はノー残業デーになったことは知っているの☆  これでも、あなたの会社の親会社の会長の孫娘ですから。いろいろと、伝手はあるのよ?
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