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「わっ、良かったぁ。ぴったりやね」
祥太郎がその場で羽織を着てみせると、カヨはホッとしたように微笑んだ。
「うちお裁縫だけはどうにも苦手やったんやけど、最近ようやっと形になってきたと思うんよ。着心地はどう?」
「ありがとう。本当によく出来てるな」
カヨは物事を飲み込むのがとても早くて、どの科目もかなりの好成績を叩き出している。
やはり彼女を学校へ行かせてよかった、と祥太郎は思う。
「これから俺の着物はカヨさんに頼もうかな」
「ほんま!? 任しとき! ……えへへ。なんかこういうのって夫婦みたいやなぁ」
カヨは照れたように笑って、それから遠くを見据えた。
「──夫婦かぁ。新しいクラスで仲良くなった紫乃さんと梅子さん、お嫁に行くのが決まって今度学校辞めるんやて。二人とも、うちより年下なのにしっかりしてて立派やね」
「まだ二年生なのに、か」
「うん。うちには学校に通うことそのものが憧れで、キラキラ輝いて見えとったけど、実際にはみんな必死にお嫁に行く先を探してる。卒業まで残るのは不名誉なことなんやて。あんなに苦労して入学試験受けたのになぁ」
祥太郎はちらりとカヨの表情を伺う。
彼女はこちらを向いて微笑んだ。
「うちは卒業したいなぁ。そんで何かお仕事やってみたい。お勉強も続けたい。でも結婚はしたい」
「欲張りだな」
「もうやりたいことを我慢するのはやめたんよ。ほかでもない兄ちゃんがこうやって幸運授けてくれたんやから、うちも変わらなあかんって思った」
カヨはベンチから立ち上がって祥太郎を振り向く。
「でもまぁ、これだけ好き勝手生きるのを受け入れてくれる旦那さんなんて見つからへんやろな?」
祥太郎も立ち上がって歩き出す。
隣に並ぶカヨの手を取った。
「それはまぁ、心配することはないよ」
「えへへ」
二人で帰路につきながら、祥太郎は今晩の夕食は何にしようかと考えを巡らせていた。
【あかつきの鳥 完】
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