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 カヨは更に文字を覚えたがっていたので、祥太郎は仕事終わりに書店で買ってきた教科書や児童雑誌を彼女に手渡した。  祥太郎は子供の頃からほとんど雑誌を読んだことがなかったので、書店員にあれこれ話を聞いてようやく見繕ってきたものである。  はじめは彼女に横から文字を教える役割に徹していたが、子供向けとは言えど凝った童話や挿絵の数々に惹かれ、やがて二人して夢中になって読み進めるうちに、あっという間に夜も更けてしまった。 「兄ちゃん、後生や、うちのこと好きにして」  また唐突に何を言い出すのかと思えば、カヨは自分の服を乱して祥太郎の胸に寄りかかってきた。  彼はぎょっとしてカヨを座らせると、乱れた服を元通りに直す。 「なっなんでや! 兄ちゃん、実はうちのこと嫌いやの!?」 「嫌いだったらわざわざこうして来てないだろ……」 「だって……」  彼女は眉根を下げた。 「うちお金貰うとるのに。それもたくさん」 「だから気にせず貰っておけばいいんだ」 「ご飯や本のお礼だってできてへん」 「……そういうつもりでやったんじゃない」  祥太郎は胸の辺りがヒリヒリと痛むのを感じた。 「し、祥太郎兄ちゃんにとってうちは子供やし、抱くほどの価値もあらへんかもしれんけど」 「価値とかそういうことを言ってるんじゃないだろ」 「与えてもろうてばっかりは嫌なんや。うちには……」  彼女は悲痛な表情で祥太郎を見上げた。 「うちには身体(これ)しかあらへんのに。それだけやのに……」
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