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 その夜は二人が想像する以上に大盛況を迎えたのだった。  子供たちだけではなく、噂を聞きつけた大人たちまでもが次から次へと集まってくる。中には食材をおすそ分けに来た商店の主もいた。  祥太郎は食材を吟味しつつ様々な料理に腕を揮った。彼は厨房で忙しなく動き回りながら、広間がちょっとしたお祭り騒ぎになっているのをどこか他人事のように感じていた。 「兄ちゃん、カレーがあとちょっとでなくなってしまう」  配膳係のカヨがパタパタと厨房に駆け込んできた。 「カレーの具材はもう尽きたから終わりだよ。……まさかこんなに人が集まるとは」 「あはは。お疲れ様やなぁ兄ちゃん。でもみんなすごく楽しそうやで。地元の人も避難してきた人も、もうすっかり仲良くなってる。ご飯の力って偉大やな」  兄ちゃんが料理人でよかったなぁ、とカヨは笑った。  店の手伝いをしていただけにも関わらず料理人と呼ばれるのは、なんだかとてもむず痒いような心地がする。  けれど手伝いでも九年間続けていれば形にはなるものである。  気恥ずかしさの中にも確かな誇らしさを感じながら、祥太郎は丈吉や菊代とともにあの店で過ごした月日を思い返した。 『食べるってのは生きるってことだろうがよ』  丈吉の口癖が今でも脳裏に焼き付いている。 (──食い逃げ犯の糞餓鬼に毎日温かい食事を与えてくれた、馬鹿みたいなお人好しだった)  祥太郎は無性に彼の作った料理が食べたくなった。けれどもはや叶わない。 「兄ちゃん、こっち」  カヨがグイグイと着物の袖を引っ張っている。 「一旦休憩にして、兄ちゃんも一緒に食べよ。うちももうお腹ペコペコやぁ」 「あれ、カヨさんまだ食べてなかったのか?」 「みんなひっきりなしにお代わりに来るから、食べる暇なんかあらへんよ。それにうち、兄ちゃんと一緒に食べたい」  カヨはそのままグイグイと祥太郎を広間まで引っ張っていった。  羽釜の米をたっぷり皿に盛って、上からルーをこれまたたっぷりとかける。カヨが自分の分も同様に盛り付けると、ちょうど鍋の中は空になった。 「はいっ、兄ちゃん。ギリギリ間に合ったな。いただきまーす!」  カヨは手を合わせると、スプーンでカレーを掬って口へと運ぶ。やがて破顔し、隣に座る祥太郎の顔を見上げた。 「美味しい! すっごい美味しいで、兄ちゃん」  祥太郎もカレーを口に運ぶ。  なるほど美味しいと思った。 「……美味いな」 「せやろ!? 兄ちゃんもそう思うやろ!?」  なぜか得意気なカヨの表情を見るにつけ、祥太郎は思わず吹き出して笑った。
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