あとがき

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あとがき

 2023年、コロナ禍により中止が続いていた隅田川花火大会が4年振りの復活を果たしました。  この花火大会は江戸時代の享保年間(諸説あります)に始まり、いくつもの時代を跨いだ今となってもなお、東京の人々にとって夏の一大風物詩であり続けています。  作中で祥太郎とカヨが見た時は「両国川開大花火」と呼ばれていたみたいです。  それ以降、第二次世界大戦などの影響もあり中止を余儀なくされた時期もありましたが、テレビなどで今も大勢の人々が浴衣を着て出掛けているのを見るにつけ、時代は変われどみんな花火は好きだよなぁとしみじみします。  そんな私は隅田川の花火を生で見たことがありません。そもそも東京なんて生涯で2度しか訪れたことのない田舎者です。  浅草にお住まいの方からすれば「浅草こんなんじゃねぇよ!!」とクレームの1つも入れたいところだと思います。すみません。田舎者なりに憧れを詰め込んで書き上げました。  今作は執筆応援キャンペーン「大正浪漫」に応募させて頂くために書いたものです。  大正時代って魅力的ですよね。和洋折衷の華やかな住宅に服装、洋食屋さん、カフェー、女学生、職業婦人……。  挙げればキリがないですが、大正時代は華やかで煌びやかなイメージとは対照的に、どこか薄暗くて退廃的な感じも想起させます。  そう感じるきっかけとなったのは、かつて浅草の象徴であった、雲をも凌ぐ煉瓦の塔・凌雲閣(通称浅草十二階)の存在だと思います。  この塔が開業したのは明治時代です。開業当初は芸妓の写真を貼り付けて投票数を競う「百美人コンテスト」なるものが開催されるなど、大変賑わっていたようなのですが、大正時代に入ると東京見物にやってきた地方の人ぐらいしか登らなくなっていたみたいです。  そんな大正期の十二階は、塔の上から飛び降り自殺をする人が出てきたり、「十二階下」と呼ばれるエリアでは私娼たちが違法に身体を売っていたりと、なんともうら寂しい場所となっていました。  そして1923年、関東大震災により倒壊、残った部分も爆破されます。  私はこれを聞いた時、これをもって大正は終わったんだという気持ちになりました。十二階に浅草の象徴のみならず、大正時代の象徴でもあるような感覚を持っていたからかもしれません。  話は変わりますが、2023年は関東大震災からちょうど100年の節目の年であるようです。私は全く意図していなかったのですが、作中年代は今からちょうど100年前ということになります。  100年ってきっと、長いようで短い。現在100歳を超える方々はたくさんいらっしゃるので、私としてはそこまで「大昔」って感覚はないです。  主人公の祥太郎は生い立ちこそ特殊ですが、性格も抱える悩みもだいぶ現代的な感じになったと思います。カヨもそうですね。彼女はもっと特殊な環境にいますが。  大正時代のお話ではありますが、ここまで読んでくださったみなさんの中にちょっとでも祥太郎やカヨに親しみを感じ、共感したり、応援したりしてくださった方がいらっしゃるなら、これほど嬉しいことはないです。  長々と書いてしまいましたがこの辺りにしておきます。  皆様、「あかつきの鳥」を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。  またどこかでお会いできれば幸いです。  2023.8.2 梅咲あすか
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