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25 どんなに嫌でも
どんなに嫌な事があっても、仕事の日はやってくるもので…
私はその日もコンシェルジュルームに出勤していた。
はぁ…
出るのは深いため息ばかりである。
どうしてあの男はあぁなのだろうか…?
一生懸命過去のトラウマを克服し、少しだけでも変わってくれたと思っていた。
なのに…
エルメスのバーキン?
GUCCIの腕時計?
馬鹿にしないでよ!
そんな事を考えていると、仕事用の携帯に天羽オーナーから電話がかかった。
数秒悩み、しかし、仕事を放り出す訳にはいかないので電話を取った。
「はい、コンシェルジュ琴宮です。」
『あぁ、琴宮か。
その、だ、だ、大丈夫か…?』
「は…?
と申しますと…?」
『いや、この間は、お、お、俺が悪かった…ような気がする…
ご、ご、ご、ご…』
「ご?」
『ごめん…』
うーん、まぁね、謝って何でも許される訳じゃないけれど…
そういう態度なら…
「いえ、私も少し感情的になりましたので。」
私はとりあえずの言葉を言った。
『そうか、実はさ。
暇でDVD借りてきたんだ。
一緒に見ないか?』
「DVD…?
見てる途中に襲ったり…」
『しねーよ。』
天羽オーナーは呆れたようにやや低い声でそう言った。
どうしようか?と悩んだが…
反省しているようなので…
「いいですよ。」
『そ、そうか!
じゃ、15分後に待ってる。』
そう言って天羽オーナーは電話を切った。
私は鏡で身だしなみが整っている事を確認すると、オープンロイヤルスイートに向かった。
しかし、一体どんなDVDを見るのだろうか?
私も映画は好きでよく見ている。
今は映画館よりも、Hu◯uなどの動画配信サービスに頼りっきりだが。
そんな事を考えていると、オープンロイヤルスイートに着いた。
中に入ると、天羽オーナーがソファに座っていた。
「おぉ、琴宮!」
「何のDVDを見るんですか?」
私。
「えーと、『ミステリーは恋の始まり』『千子の呪い』の2つだな。」
天羽オーナーはDVDの題名を読み上げる。
どうやら、ミステリーモノと、ホラーモノらしい。
まぁ、悪くは無いチョイスだ。
「さぁ、見るぞ!」
何が楽しいのか、天羽オーナーは張り切っている。
天羽オーナーがソファを立って、DVDを準備している時、ソファの上にある雑誌があった。
何々?
『モテ男のデートテクニック!』?
それで…
DVD…?
これってデートなの???
うーん…
まぁ、エルメスのバーキンで釣るよりは、少しだけまともかもしれない。
でも、ホテル王が、モテ本見てるなんて…
私は心の中で苦笑いした。
「始まるぞ!」
「はいはい。」
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