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27 破産するまで
side久遠武人
その日、アメリカから来たご夫婦の結婚記念日のサプライズパーティーを計画・実行し、それは成功。
俺は久しぶりに定時に帰る事が出来た。
その夫妻は、後はチェックアウトだけなので、他のコンシェルジュに話を通してあった。
帰ろうとした時、私服に着替えた琴宮とばったり会った。
「お、琴宮、今上がり?」
「うん、そうよ。
お疲れ様ー。」
琴宮は久しぶりに機嫌良さそうにそう答えた。
「お疲れ!
軽くメシでもどう?」
俺はダメ元で誘ってみる。
「いいわよ、その代わり武人の奢りよー?」
彼女はお茶目にそう言った。
そんな事で夕食を共にしてくれるなら、俺は破産するまで奢り続けるだろう。
それくらい彼女が好きだった。
彼女が居るから、このホテルに残っているとも言える。
何度か、他の高級ホテルからのヘッドハンティングはあった。
だが…
俺の答えはいつも、NO、だった。
「いいよ。
どこがいい?」
俺は嬉しさを隠して尋ねる。
「かしこまった所は嫌だわ。
美味しい居酒屋があるのよ、この道の先に。」
という訳で琴宮おすすめの居酒屋に向かった。
席は会社帰りのサラリーマンやOLで溢れていた。
少し待って、カウンターの席で良いと伝えて入る事が出来た。
適当に料理を注文して、彼女はウーロンハイ、俺はハイボールを頼んだ。
「でね、天羽オーナーが…!」
「その時天羽オーナーが…」
「天羽オーナーったら…」
琴宮はウーロンハイを飲みながら、天羽の話ばかりをした。
俺の嫉妬心には簡単に火がついた。
「琴宮、お前アイツに惚れてるわけ?」
俺は不機嫌そうにそう聞いてみた。
「まっさか!
お客様の1人よ!
私がお客様を恋愛対象にしないのは、武人がよく知ってるでしょ?」
キョトンとして言う彼女に、俺はいささか呆れた。
天羽オーナーの話をする時の彼女は恋する乙女そのものだったからだ。
とにかく、俺の目にはそう映ったし、琴宮が自分で気づいて無いだけで、彼女は天羽に惹かれている。
そう考えた。
俺の胸は締め付けられ、それを酒を飲んでなんとか誤魔化した。
ちょうどよく酒が回り、出来上がった俺たち2人は、少し夜の道を歩く事にした。
「じゃあ、私はここからタクシーで…」
琴宮が帰ろうとしたその時、俺は彼女を後ろから抱きしめた。
「た、武人っ!?」
「好きだ…」
「えっ…?」
「コンシェルジュとして再会した時から、ずっとお前が好きだったんだ。」
俺は遂に告白してしまった…
NOと言われるのは、分かり切っているのに…
案の定、琴宮は小さな声で、「ごめんなさい…」と言った。
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