図書室から

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 病院の名前を聞いて、ああ、あの病院か、となった。ちょっと体の具合がおかしいというだけで、すぐ入院させるといって有名なのだ。 「そりゃ災難だったね」  私はかわいた声で笑った。 「まあでもよかったね。おとなしく点滴受けてりゃ、三日で退院できるよ。学校休めるし、本も読み放題だよ。うらやまし〜」 「いやだよ。狭い部屋に閉じ込められてさ」 「まあ、そりゃそうだけど」 「何にもないところで、五冊なんか一瞬だよ。何とかならないかな」  熟慮の結果、私が湊人くんの病室まで、本を運搬することになった。  借りた本を読み終えたら随時、湊人くんからリクエストが届く。リクエストした本があればその本を、なければ、適当に選んで貸し出すことになった。  東野湊人、と、一冊ずつ図書カードに書き込んでいく。  東野湊人、ひがしのみなと。  湊人くんは、普通の小説なら五冊あっても二、三日で読破してしまう。だから私は「東野湊人」という名前をほぼ毎日、漢字練習帳のごとく書き連ねることになってしまった。それでいつしか私の中では、「東野くん」から「湊人くん」へと呼び名が勝手に変わっていった。
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