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「いや。でも、面白そうな本見つけたから、買ってみた」
「え、誰?」
「この人。知ってる?」
「知らない。新人?」
持ってきた本を見せ合ううちに、いつの間にかお互いの本を熟読していた。
ふと顔を上げると、ジュースのグラスから水滴がこぼれて、グラスのふちに水たまりを作っていた。近くの席に座っていた人たちは完全にいなくなり、別の人に入れ替わっている。
湊人くんはまだ読んでいる。だから私もまた、ページに目を落とした。
湊人くん。
あなたが、好きだ。
って、伝えたい。
でも今は、違うのかもしれないな。とも思う。
好きだって伝えれば湊人くんが元気になるなら、もう入院したりしなくて済むのなら、いくらでも言うのだけど。
私がすっきりするためだけに言うのは、何か違う気がした。
だから今は、言わない。
今は、湊人くんが私の目の前にいる。そのことだけが、すべてだった。
「……つぐみ」
湊人くんが顔を上げた時にはもう、夕日が沈みかけていた。一体何時間過ごしたんだろう。一言も声を交わさないまま。
湊人くんは、
「この本、借りててもいい?」
と言った。
「あ、読みきれそうにない?」
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