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翌日、私は仕事終わりに潤さんに会いに行った。話したいことがあると。
潤さんももちろん毎日が多忙で、いつものように爽やかな笑顔で、待ち合わせをしていた彼の営業所近くのカフェに来てくれたが、仕事終わりにスーツをきっちり着るのはもう嫌と言いたげに、珍しくネクタイが緩んでいた。
「急に呼び出してごめんなさい。」
「大丈夫。大切な話なんでしょ?」
入口近くの席に向かい合って座った。潤さんと私はホットコーヒーを注文し、それが運ばれてくるまでは、銀行の12月の忙しさを嘆き合った。
「それで、話って?って言っても、だいたいの予想はついているんだけどね。」
運ばれてきたコーヒを一口飲んで、微笑する潤さんは、やはり大人だった。
年齢での大人とかではなく、私なんかが横に並ぶのも恐れ多いぐらいの素敵な男性だった。
「この間の彼が好き?」
そう、この人は翔太がいとこじゃないことを見抜いているに決まっている。
「……分かりません。一緒にいる時間が長かったから。中校生の時に、小学生の彼を私が家に招き入れたんです。それからずっと一緒でした。」
父が亡くなって、翔太に出会い、私と母は翔太の存在に救われたのだと思う。
「でも、今の私は彼がいなくなる生活は想像ができなくて、彼にもう会えないって言えません。いつでもうちにおいでって思ってしまうんです。そんな状態で、潤さんの彼女の椅子には座れません。」
「俺がいいって言っても?」
「……そう言うどっちつかずの自分が自分は嫌いなんです。それに彼と……大人になろうとしている彼と子ども扱いしないで向き合わないと失礼だと思っているんです。」
魚の骨を取るような関係ではなくて。
彼が今見ているもの、考えていること、思っていること。
今の翔太と向き合っていなかったのは私だ。
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