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「お姉さん」
ハルくんがまぁまぁと言いたげに肩を叩く。
「もしかして、俺と翔太が恋仲とか思ってたんですか?」
「だって……ハルって名前だから、てっきり女の子かと。」
冷静になると、「ハル」と言う名の男の子もいるじゃんと思う。
「それに、翔太、よくハルくんと連絡をとっているから。」
彼女だからだと思ったのだ。
「あー、それは、俺、morning glowの動画作成のお手伝いとかしてて。」
「動画?作成?」
「これです。」
ハルくんが自分のスマホから動画編集のアプリををあける。ボーカルである真尋くんの歌声が、原色寄りのアニメーションと一緒に流れる。
「絵は翔太が描いていて、動画もほぼ自分で作ってるけど、細かい微調整は俺が。俺、得意なんです。趣味で色々としていて。今はまだ制作途中だけど、動画が10本近くになったら、動画サイトにアップする計画を立てています。」
あの日、電話でハルに任せるって言っていたのは、この動画制作の作業のことだったのだろう。
「ちなみに、俺は女の子にめちゃくちゃモテるので、彼女が途切れることもなく、翔太とは本当にクリーンです。その反面、翔太はずっと一途ですよ。モテる方なのに。」
「一途……」
「お姉さん以外の女の子には興味がない。告白されても、受けたことはないです。」
出会った頃からずっと私を……
「ハル!!」
強い力でハルくんの肩を掴む人。ライブの演奏で汗をかいて暑いのだろう。この冬空でも半袖のTシャツにジャケットだけ羽織った翔太が、ライブハウスから出てきて、ハルくんの隣に立った。
「べらべらと余計なことを話しやがって。」
「えー?だって、俺は翔太とお姉さんに幸せになって欲しいの。ねっ!」
ねっ!と言って、ハルくんは私の母にウインクをした。
「もちろん。だって私、翔ちゃん以外の子を義息子にしたくないもの。」
「お、お母さん!?」
何言ってるの!?こんなところで。
「心に決めていたのよ。翔ちゃんの成長を見ながら。だから、私はずっと翔ちゃんの恋の味方だからね!」
もしかしたら昔から全て母の手の内だったのかもしれない。
こうなるのことが分かっていなかったのは、私と翔太だけなのかも。
それでも……
「翔太、今日、すごくかっこよかったよ。」
「惚れた?」
「まだ!」
この恋の始まりが最後の恋愛になってもいいと思ったりもするのだ。
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