どこにも行けない どこにも行かない

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男の名前は伊勢谷千鶴(イセヤ チヅル)と言った。 この4月に英語教師として赴任してきた27歳。赴任直後から女子生徒には大人気。イケメン教師現るというやつだ。 そうなると、男子生徒からの評判は下がるものだが、1ヶ月後には男子生徒からも大人気となる。 話が分かる。 理由はそれだけ。 伊勢谷先生は決して生徒を甘やかしはしない。ダメなことはダメと言う。 でも、生徒の話を必ず最後まで聞く。些細なことなら多めに見てくれる時もある。 境界線がブレないのだ。 昨日は許したのに、今日は許さないと言うことをしない。 人の道理として踏み外していることには、厳しい態度をとる。 そんな彼だから男性教師の評判も決して悪くない。顔で生徒を転がしているなんて言う教師はいない。 でも、私は…… 正直、少し苦手だ。 と言うか悔しい。 こっちが努力を積んで、気配りをして手に入れた地位や居場所を、この人は僅か一瞬で手に入れることができるのだ。 飄々とした顔をして。 不公平だと思う。 こう言う人間は、私みたいな人の気持ちなんて分からないのだろう。 どうしてそんなに必死に毎日足掻いているのって思っている。 もっと楽にしたらって。 それができたら、私ももっと上手くこの仕事をこなしている。 それができないから、なんとかやりくりして生きているのだ。
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