どこにも行けない どこにも行かない

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山積み。 机に乗った書類の山。定時から 1時間経った18時を過ぎた時に、山之内先生が私の元に持ってきた。3年生の夏休み前に受けた模試の結果一覧だ。 今日中に点数をデータ入力しておいてくれとのこと。3年生生徒は240人いる。模試は一人少なくても3教科は受けている。多い人なら5〜6教科。その点数全てを入力するだなんて。 明日の会議で使うからとの理由だが、この結果一覧自体は先週には学校に届いていたのだ。仕事を振るならもっと早く振れ。忘れていたのなら自分でしろと思うが、それは言わない。 山之内先生も抱えきれないぐらいの仕事をしているから。それに私のような気楽な独身一人暮らしとは違って家族もいる。 家に帰ってもご飯を作り、片付けをし、子どもを寝かしつけてと、たくさんのすべきことが待っている。 19時を回る頃には、一人、また一人と職員室から人が帰って行く。ようやく3分の1。 いや、本当に私、何時に帰れるのだろうか? そもそも私、3年生の学年担当ではないのだ。4月の新学期に自分が持つ学年の担当が振り分けられる。振り分けられたら、1年間はその学年の授業や指導をすることになる。 学年を持たない教師もいるのだが、その人たちは他の担当がある。教務や生徒指導、進路指導などだ。 私は今年は1年生の担当なのだ。だから、本来これは3年担当か教務担当という、学校の時間割や授業内容を検討している担当がすべきなのだが。ちなみに山之内先生は教務担当だ。 まぁ、こんな単純作業、忙しい学年No. 1の3年担当や校内一忙しい教務担当がする暇もないことは分かってはいる。 「貸して。」 残っていたプリントの半分近くに手がかけられる。 斜め上を見上げると、そこに伊勢谷先生の姿があった。 「一人でする量じゃないでしょ。」 「あの……ダメです!!」 またこの人…… 「なんで?」 「だって、伊勢谷先生は2年担当で、この件には関係ないから。」 「それは君も同じでしょ。」 「……。」 職員室に残る人も10人を切っていた。この人だって帰りたいって思っているはずなのに。
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