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そうして案内された場所は河川敷だった。空を染めるぐらいの夕焼けがすごく綺麗で、遠くに架かる橋を車が行き交っている。
「ここ……」
見覚えがある。文化祭の……桜ちゃんと見に行った……
「うん、成海が写真で撮った場所。俺と成海が中学校の間、過ごした場所。」
お互いに促し合うように河川敷の土手に座った。静かだった。空気の流れる音が聞こえるぐらいに。
「成海と話したんだ。文化祭の後で。少しずつ関係は変わっていくだろうけど、もう迷わないよ。俺自身、やりたいことも見つけたんだ。学校の先生を目指そうかなって。タナハッシーも応援してくれてるし。」
「松田くんに似合うと思う!」
思わず食い気味で答えてしまう。あ、でもそうなったら女子生徒にきゃあきゃあ言われちゃう?それはそれで辛い……って、そんな時まで一緒にいられるわけないのに。
「全部舞香のおかげ。」
「えっ?」
「これ、あげる。」
松田くんは背負っていたリュックサックから紙袋に入った箱を取り出して、私に差し出した。
「開けて。」
言われるままに紙袋から白い四角い箱を取り出すと、中には両手に乗るサイズの丸いケーキが2つ。ひとつは生クリームのショートケーキだが、ケーキの上の右端に薄桃色で薔薇の形を作ったクリームがデコレーションされ、中央にhappy birthdayのプレートがのっている。もうひとつはチョコレートケーキ。いちごとベーリーがふんだんに盛られている。
「誕生日おめでとう。」
松田くんにそう言われた瞬間、泣いてしまっていた。いろんな感情が湧き上がって、私の心を侵食して涙にしかならなかった。
「えっ!?嘘!?なんで泣いてるの?ケーキ苦手!?」
「違う……だって…だって…」
そして、ここで天然ぶりを発揮する。調理部で散々、甘いものを作っているのだから、苦手なわけないじゃん。
「誕生日……なんで知ってるの……」
「そりゃあ、大切な人の誕生日だからね。」
「うっ…うわーん……」
大切な人とか言うな!!佐伯くんが言っていた女誑しはあながち間違いではないのかもしれない。
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