どこにも行けない どこにも行かない

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伊勢谷先生は今日は車で通勤していた。自転車を置いて帰るのに困らなければ、助手席に乗って欲しいと言われた。 困りはしない。明日だけ駅からバスで学校に通勤すれば良いだけだ。 だけど、助手席に乗るのって良いのかとは思う。ブラックマイカのハッチバッグの外車。こんなの乗りこなす時点で、助手席に乗る特定の人がいるに決まっている。 そんなことを思って、助手席のドアを開けて、動きが止まる。 運転席の後ろに陣取るチャイルドシートに。小学生ぐらいが乗る簡易的なものだ。 「あの……」 「何?」 「……伊勢谷先生ってお子さんいるんですか?」 妙な沈黙。 あれ?あれれ? 確か独身って聞いたことがあるような? えっ?子ども? 「ごめんなさい!立ち入ったこと聞いて。まさか伊勢谷先生に隠し子がいるなんて思ってもいなくて!!」 慌てて頭を下げたら、大笑いされた。 「本当にすぐみんなそうやって言うよね。俺、そんなに隠し子いそうに見える?」 「いや、だって……」 [みんな]過去に誰かに同じようなことを言われたことがある。そんなこの人の過去を覗き見する。 「まぁ、いいや。行けば分かるよ。行こう。遅くなるとすぐ拗ねるから。」 促されて、幾分躊躇いながらも助手席に腰を下ろした。
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