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もうやけだった。松田くんに「今、食べたい!二人で!」って言ったら、フォークまでも用意していて、二人で箱のまま食べた。
「すごく美味しい!」
いつまでも泣いていては迷惑をかけると、ハンカチで涙を拭って、感情を抑え込むためにもケーキを口にした。
「この辺りで有名なお店なの。舞香に渡す前に、リュックの中で崩れたらどうしようって、今日一日、そわそわしてた。」
なんでもスマートにやってしまうくせに、そこは一日そわそわしながら、ケーキを持ってくれていたんだと思うと、愛しい気持ちが湧いてしまう。
ケーキを食べを終えて、帰りは断ったのに、聞いてなんてくれるわけもなく、家の前まで送ってくれた。自分の家の近くにいたのに、わざわざ電車に乗って、送ってくれるなんて。しかも、
「舞香に何かあったら、後悔するから。」
と、恥ずかしがることもなく言うのだ、この人は。
「今日はありがとう。楽しかった。ケーキも嬉しかった。」
それぐらいしか出来ないから、深々と頭を下げて、お礼を言う。[誕生日を知っていましたサプライズ]をデートの後半でするのは、反則としか言えない。
「俺も楽しかった。それと、これもあげる。」
もうひとつ、彼から差し出された紙袋。エメラルドグリーンのケーキに比べると小振りの紙袋。
「これ……」
「誕生日プレゼント。おめでとう」
髪に松田くんの手が触れる。日が沈むのが早まり、辺りが薄暗くて良かったと思う。耳の先まで熱い。顔はさっきの夕陽と同じくらい赤くなっているに違いない。
「ありがとう。本当に。私、今日のこと絶対に忘れないから。」
忘れたいって思っても、もう忘れられるわけがない。この思い出を抱えていくしかない。
「うん、また月曜日、学校でね。」
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