どこにも行けない どこにも行かない

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2時間半程続いた飲み会は21時過ぎにお開きとなった。一部では2次会する?という声も上がっている。 楽しかったけど疲れた。 夜空に浮かぶ 1等星を見上げて、気付かれないように小さくため息をついた。山之内先生の話題が出ている間は、相槌を打つだけで、なるべく沈黙を貫いた。楽しい会でそういう話はやめたらと言えたらいいけど、その強さは持ち合わせていない。それに、それはそれで空気を読めていないのも確かだ。 伊勢谷先生、今日、来て良かったって思ってくれただろうか。この会で最初から最後まで彼と話すことはなかった。 責任を感じてまではいないけど、来たらどうですかと押したのは自分だから。誘いにのるのではなかったとは思ってほしくない。 2次会は行かないとこうと思って、居酒屋の前で次の店を決めている人たちを少し離れていたところから眺めていたら、隣に気配を感じた。 その気配にしゅっと背筋が伸びる。斜め上を見ると、斜め下を見る伊勢谷先生と目が合う。 「お疲れ様。」 「お疲れ様です。楽しかったですか?」 「うん、それなりに。」 「それなら良かったです。」 しばらくの沈黙。でも、この人との沈黙はなぜか心地がいい。他の人なら、気まずくなる前に何か話さなきゃって思うのに、この人とは、沈黙が一つの会話のように感じるのだ。お互いにお互いの今思っていることを受け止めあっているような。 「どこか行かない?」 「えっ?」 もう一度、目が合う。 私、誘ってもらった? 「お酒もいいけど、もう少しゆっくりできるところ。」 「……行きます。行きたいです。」
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