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玄関で適当に「ただいま。」と言って、靴を脱ぎ捨てた。すぐに自室に籠って、ベッドの上で紙袋の中を取り出した。
紙袋と同じエメラルドグリーンの小ぶりの箱がひとつ。
開けて、ゴンと壁に頭をぶつけた。わざとだ。そうでもしないと、気が狂いそうだった。
細い銀色の鎖にリボンの形をしたネックレス。自分がいつも着ている服装に合わせやすくて、そして可愛い。
「松田くんのバカ!!バカ!」
我慢できなくて、部屋のドアにめがけて、お気に入りのぬいぐるみを投げつけたら、なんとも絶妙なタイミングで利希がドアを開けて、ぬいぐるみに激突した。
「お姉!何を暴れてるんだよ。」
「あ、暴れてないわよ。あんたこそノックぐらいしなさいよ!」
「しただろう。デート帰りで浮かれてるから聞こえなかっただけだろう。」
「浮かれてなんていない……だって…もう嫌!全部嫌!」
「なんだよ、急に。」
利希はぬいぐるを抱えて、ずかずかと中に入ってきて、私のベッドの前に座る。
「お、可愛いネックレス。お姉の趣味を分かってる男だこと。」
「うーッ……これだって前触れなんてなかったの。私ばかり振り回されて、もうしんどい。辛い。これ以上、好きになりたくない。」
この感情を持ち切れず、まさかの利希に恋の相談をしている自分がいた。
「そんなこと言うなら別れたら?」
能天気な声で、スマホを触りながら、利希が即答する。
「はぁ?」
「そうやって優しくされるのが嫌なら別れるしかないじゃん。だってそいつ、本能的にそう言うことしちゃうっぽいし。」
「別れたら……どうなるの?」
「最初は辛いけど、お姉の気持ちは楽になる。これ以上、自分だけ好きを続けなくていい。好きなやつなんて、これから先、いくらでも出来るって。そいつ以上のハイスペックが出てくるかもしれないし。」
楽になる?本当に?
仮彼女を卒業して、前の暮らしに戻ったらいいって言うの?
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