自分だけが片思い?

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❇︎❇︎❇︎❇︎ 「タケ!聞いた?次の試合の対戦相手!」 昼休みが始まってすぐ、サッカー部のマネージャーである茅野蓮(カヤノ レン)ちゃんが入ってくる。松田くんは私の席の前に立っていた。今から一緒にお昼に行く予定だった。 「どこ?」 「タケが推薦を蹴った高校!」 理系クラスの茅野さんだが、文理クラスに入ってくることには抵抗がないくらい友だちの多い子だ。お父さんがスポーツ記者らしくて、幼い頃からサッカーの試合をたくさん見てきて、サッカー通として学校でも有名だった。 高校に入ったら、サッカー部のマネージャーになるんだって中学の時から言っていたらしい。 「まじで?なんでそんな強豪がうちに?」 「うちの高校だって、強いもん。そりゃ、強豪私学にはなかなか勝てないけど、公立やそれなりの私学なら負けないじゃん。」 そう、うちの学校のサッカー部は松田くんだけではなく、佐伯くんや他の子もレベルが高くて、公式試合では毎年、全国を狙えるところまで行くのだ。 「タケのこと顧問が心配してたよ。推薦蹴ったことを気にしてないかなって。」 茅野さんは松田くんのことを「タケ」と呼ぶ。彼女だけではない。サッカー部のマネージャー、後輩マネージャー以外はみんなそうやって呼ぶ。 「別に気にしてないよ。もう2年も前の話だよ。」 「じゃあ先発、MFでいい?」 「いいよ、大丈夫。」 完全に蚊帳の外の私。 私よりずっと茅野さんとの方が松田くんとの付き合いは長い。 「FWはやっぱり丈かな……」 茅野さんが可愛いキャラクター物のノートを手に試合の戦略を練り始めた瞬間、松田くんが「ねぇ」と声を上げた。 「お昼行ってもいい?」 「えっ、あぁ……ごめん。」 チラリと私の方を見た茅野さんと目が合う。 「邪魔してごめんね。えぇと…青山さんだっけ?」 「……。」 こう言う時、しどろもどろになって何も言えなくなる。 「タケの相手、大変でしょ。この人、知り合いも友だちも多いから。この間も部活の前に科学部の人が尋ねてきて、今度のロボットコンテストのロボットが完成したから、ぜひ松田くんに見てほしいって。陰キャの友だちまでいるのって感じでしょ。」 「……陰キャとか……そう言う表現、どうかと思う。自分で言うのはいいと思うけど、他人が言うことじゃない……」 って、何言ってるの!?私!!茅野さんみたいな人に喧嘩売るような真似して!! 「茅野、俺の友だちのこと悪く言うなよ。」 ぐっと松田くんに腕を掴まれた。 「行こう、舞香。」 ……あの松田くんが怒ってる? 「ちょっとタケ!何、その態度。」 「俺、お腹空いてるの。部活の話は部活の時にして。」 「その時間がないから、今言いに来たのに……」 「彼女と過ごす時間も今しかないの。」 茅野さんの視線を抜けて、手を引く松田くんの背中を追いかける。 背後で佐伯くんが「蓮、あいつ、お腹空くと機嫌悪くなるから、今日のはお前が悪い。それから陰キャはないわ。うちの科学部ってロボコンで入賞するぐらいすごいんだろ。」と、フォローを入れてくれている。佐伯くんはいい加減そうに見えて、こう言う時、自分の守りたい人を必ず守る。
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