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その後のこと。私は松田くんを猛くんと呼ぶようになった。勝負をして勝ったら、お願いをひとつ聞く第二弾をした。もちろん、私が勝てるはずもない勝負。負けた私は、晴れて彼のことを猛くんと呼ぶようになったのだ。
そんな猛くんは、利希とめちゃくちゃ仲良くなった。利希が会いたいとしつこく言うので、一度会わせたら、私の仲立ちなどいらないぐらいに意気投合した。サッカーだけじゃない。ゲームも。
「いや、マジで凄いよ!あの、ハイパー級のステージをクリアできたなんて!師匠だよ、師匠と呼ばせてください。」
と、利希は目を輝かせて猛くんの手を握りしめていた。そして、そんな利希にも猛くんは優しい。いつの間にかメッセージアプリのIDを交換していて、週に1回はやり取りをしているそうだ。
「お姉、マジで別れるなよ!師匠がいなくなったら、俺は生きていけない!」
いやいや、何それ。私よりも好きになってない?
でも、超反抗期の利希に頼れる先輩ができたこと。猛くんには感謝しかない。
そして私も
「サッカーのルールを教えてほしい?」
「う、うん。ダメかな?」
デートの帰り道、電車に揺られながら彼にそう伝えた。
「いいよ。でも、どうしたの急に?」
「別に……何となく知りたいなぁって……。」
猛くんが好きなこと、大切なことをきちんと知っておきたいって。
「あ、分かった!利希くんの試合の応援にでも行くの?」
天然!!なぜそこで利希になる!?
「なーんてね……ありがとう。俺の好きなことに興味を持ってくれて。」
あ、あれ?天然?
「ふふっ…やっぱり可愛いな、舞香は。」
「あの!」
急に可愛いとか言われるの困る。上手く反応できないんだもん。
「もしかして、俺のこと天然って思ってる?」
「す、少し……」
「知ってたよ、あの日から。」
「えっ?」
「図書室から俺のことを見てる可愛らしい女の子がいるなって。」
「えっ?ええっ?」
「俺が舞香がサッカーが好きで見てるって考えていたと、本気で思ってた?」
「ま、ま、松田くんって……」
「天然よりは人工かもね。」
私の顔を覗き込んで笑う彼に、その日、私は悟ったのだ。
私の好きな人は私では絶対に敵わない人だと。
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