同じ匂い

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「新内さんって本当に大人しいわよねー。」 「何考えてるか謎。でも、仕事はできる方よ。」 パートさんたちが本人に聞こえてもいいくらいの声で、休憩室で雑談している。私、新内杏里(シンナイ アンリ)は休憩室の前を通り過ぎて、廊下の突き当たりにある非常階段に向かう。 配送業社に経理として雇ってもらった。トラックを扱うのは社員の男性が多いが、荷物の箱詰めや宛名のチェックなどは、40代〜50代の女性が中心のパートさんたちの支えで成り立っている会社だ。 この春、経理をずっと担当してきた方が定年退職を迎え、私が採用されたのだ。 強面のスキンヘッドの社長は、中身はとてもいい方で、私のコミュニケーション能力に難があることを分かっていて、雇ってくれた。仕事ができればそれでいいと。 非常階段から外に出ると、屋上へ繋がる階段がある。私は早足でそこを登る。 屋上に行けば空が見える。 澄んだ空気が吸える。 それがすごく心地いい。 自分が小さくてもいいんだって思える。 この空には誰も敵わないのだからと。
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