同じ匂い

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家から持参してマイボトルを片手にただぼんやりと空を眺めていた。 就職を機に実家を出て一人暮らしを始めた。別に実家にいても良かったのだが、学生時代も実家から大学に通っていたので、一度、一人暮らしというものを経験してみたかったのだ。 それに、一人を愛す身としては、帰って誰に何も言われない(まぁ、実家でも然程言われないけど)のは、気楽で快適で、自分の望んでいたものがここにあったと思うのだ。 ちらりと気付かれないように、間宮くんを盗み見る。彼はまだ大の字で寝転がっている。 最近の若い子は、私も若いけど、スマホでSNSをチェックするのが常だと思っていたのに、彼はそんな気配すら見せない。 しかし何をしているのだろうと思ったら、突然、歌い出した。大声ではないが、私がいること忘れてる?と言いたくなるぐらいの声量で。 でも…… 綺麗な声。そう言えば、バンドやってたんだっけ。絶対ボーカルだ。陽キャなところもボーカルっぽい。 「あー、あー……」 中途半端なところで歌は終わり、今度はあーあー言い出したかと思うと、間宮くんはようやく起き上がって伸びをした。 そして、のそのそと立ち上がり、なぜだか私のところにやってきた。 な、なんだ? 思わず身構える。 さっきの歌、聞いていただろうって文句言われる?いや、でもそっちが勝手に歌い出したのだ。 「新内さん、今何時?」 「えっ、あっ……」 手にしていた腕時計に目をやる。 「さ、3時。」 「戻らなきゃ。休憩お終いの時間。」 「……あ、あの…」 「ん?」 あれ?私、なんで呼び止めてる? 何で……? 「ま、間宮くんってボーカルなんですか?」 「違うよー。俺はお喋り担当。」 お、お喋り担当? 笑みを見せ、手を振って去って行く彼の後姿を見送ったら、全身が脱力していた。 私としたことが。自ら陽キャに接触する危険行為を犯すだなんて。
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