同じ匂い

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この掴みどころのない人と、何を話せばいいのだろうか。 そんなことを思いながら、ただ黙々とテーブルに並べられたコース料理のメニューを食べる。なぜか間宮くんはどこにも行かない。私と同じように、いや、私よりもはるかに美味しそうに口にしている。 「新内さんってどうしてこの会社に?」 そう彼が口にしたのは、目の前の大皿の刺身を私と二人で全て平らげてからだった。 「……落ちたんです。色々な会社の採用に。」 なぜだろうか。自分のことを話すのは苦手なのに。間宮くんにはするすると無意識に言葉が口から溢れる。 「それで、ここの社長が拾ってくれました。」 「そうなんだ。じゃあ社長に感謝しよう。社長がいなかったら新内さんと出会えなかったもんね。」 「ゴッ!ゴボッ!」 咽せた。 飲んでたシャンディガフが喉を通らなかった。 だって 私と出会えなかったって、急に何を言っているの? 「間宮くんは?」 よく分からないことはスルーして、会話を変えよう。 「どうしてここに?」 「んー、時給良かったからかな?それに、社長も優しいし。ほら、今日でも俺に飲ますなって言って、守ってくれてるでしょ。」 間宮くんは今も烏龍茶を飲んでいる。 「俺、ずっとバンドをしていたいと思っているんだ。本気で。だから、くだらないことで道を踏み外す訳にはいかないの。メンバーのためにも。」 真っ直ぐな目。逸らしたくなるぐらい。目標もなくただ日々を消化する私とは違う。 「あの、お喋り担当ってなんですか?」 「あぁ、この間の?」 私との会話、覚えてるんだ。あの屋上で交わした言葉。 「ボーカルがね、喋りが苦手なの。だから、俺がMCは基本仕切っているから、お喋り担当。」 「なる……ほど?お喋り以外は?何をしてるんですか?」 「えっ?あ、そうだよね。バンドだもんね。ベースが本当の担当。曲を作ったりもしてるけど。」 「曲を作れるなんてすごいです!聞いてみたい!」 自分でも自分が変だと思う。この人と会話を紡いでいること。最初はどこか行って欲しかったのに、今は心地悪さは全くないこと。 多分、少し嬉しかったんだ。 毎日の中のほんの数分の時間に、彼の生活には存在してもしなくても差のない人間と話した内容を覚えていてくれたことが。 「いいよ。昨日、ようやく完成した曲がスマホに入ってる。メンバーにも次の新曲は絶対にこれって言われている自信作。」 なぜだかご機嫌の間宮くんが、履いていた黒のワイドパンツからスマホを取り出した瞬間だった。
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