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「間宮くーん!私たちとも話しよう!」
雪崩のように数人のパートさんがこちらのテーブルに流れ込んできて、私は雪崩を喰らって、テーブルから弾き出された。
「新内さんばかりずるい!」
「おばちゃんたちの相手して!」
「相談にのってほしいの!」
間宮くんは時々、パートさんの相談にのっている。男子高校生の子どもがいる人などが、息子の考えていることが分からないと言って、間宮くんに相談をしている。
間宮くんはそんな話しも全て受け入れる。否定しない。批判しない。かと言って、適当に甘い言葉を言うわけでもない。
パートさんたちに付き合ってあげていると言う気持ちは彼にはない。助けてあげたいという偽善も。
だから、人が寄ってくる。あのルックスのおかげもあるけど。笑った顔が可愛い。そして、その笑顔に人工臭さがないのがまたズルい。
笑いたいから笑う。
彼にはそれしかない。
テーブルから弾き出された私は、ゆっくりと座敷を立った。次の居場所は見つけられない。
スマホを開けて時間を確認すると、お開きまではまだ時間がある。
私、一人消えても大丈夫。会費も前払いなのでもう払った。
うん、間違いない。
今なら見たかった映画のレイトショーに間に合う。
よし、決まりだ。
荷物を入れてきた小ぶりのリュックを背負う。
今回の幹事をしてくれていたパートさんのところへ向かう。社長の座る席の近くで、仲良しのパートさんと談笑している。
こういう時、あまり緊張しない。
どう思われるか興味がないのだと思う。
「すみません。」
「あら、新内さん。どうしたの?」
「ちょっと体調が優れないので帰ってもいいですか。」
そこで声のトーンを下げる。
「実は生理中なんです。2日目のせいかお腹が痛くなってしまって。大丈夫かなって思っていたんですけど、やはりずっと座っているのも不安で。」
嘘だ。でも、この嘘は、女の人にはけっこう使える。
「大丈夫?生理の時って辛いもんねー。こっちはいいから、帰ってゆっくりしてね。」
生理と言えば、どうしようもないことだし、もし何かあって、会の最中に服が汚れないかなどの不安な気持ちまで汲んでもらえることも多いので、比較的、追求されずに解放されることが多いのだ。
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