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「弾いてみる?」
間宮くんは胡座をかいて、その上に軽く乗せていたベースを持ち上げると、横座りしていた私の膝に乗せた。
「左手でベースの先を持って、右手でピック握って……」
間宮くんの手が私の手を取って、丁寧にガイドしてくれる。
「それで、そのまま鳴らす。」
言われるままにピックを上下に動かしたら、彼の音とは程遠いけど、それでも微かな音が鳴った。
「初めてでも鳴るんだ……」
ちょっと感動。
「間宮くんはいつから弾いてるんですか?」
で、なぜかまた会話を続けている。
「小学6年?かな?サンタにもらったの。クリスマスプレゼント。」
「そうなんですね。じゃあ、ご両親も間宮くんのこと応援してくれてるんですね。」
サンタは両親なのだから、プレゼントしてくれたぐらいだから、今も応援していると思ったのだ。
「んー?よく分からない。くれたのボーカルの叔父さんだし。俺、片親なんだよね。生まれた時には父親はいなかったから。認知もしてもらってない。」
「あ……ご、ごめんなさい。」
勝手に両親だなんて想像して、軽々しく発言するなんて。こう言う時にコミュニケーション力の低さが全面に出る。
「謝ることじゃないよ。あの頃は母親がほとんど家に帰ってこなくて、何でだよって思ってたけど。仕事はしてたけど、恋人がいてそいつに惚れ込んでたから。」
間宮くんは私からギターを引き取って、愛でるように優しく撫でた。
「でも、こいつと会えたし、大切な仲間もできたから、今は良かったって思ってる。それに今は母さんともお互いに尊重しながら暮らしてるんだ。バイトをしているのも母さんにバンドの費用とか自分に必要な物とか迷惑かけたくないから。」
「……。」
ただ明るいだけの人だと思っていたのに。太陽のように眩しいと思っていたのに。
「それより、なんで新内さん帰っちゃったの?」
「えっ?」
「歓迎会。」
「あーと、体調悪くて……」
「ふーん。」
めちゃくちゃ疑いの目で見られて、その視線をかわすことしかできない。あんなに刺身を食べまくって、体調が悪いわけがない。
「聞いて欲しかったのに。曲。」
「それは私も聞いてみたかったです。」
「じゃあって言いたいところだけど、俺、もう休憩終わりだから戻らなくちゃ。」
私の腕時計の針が3を指そうとしている。
「また明日。ここで会おう。約束ね。」
「……。」
間宮くんからの一方的な約束。
でも……
私はきっと明日、その約束を守るのだ。
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