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1時間なんて約束は簡単に破られて、間宮くんは21時前に我が家を出た。帰り道は大丈夫かと聞いたら、「原付だから平気だよ。ここからすぐだから。」って言われた。お家の人は心配してない?と一瞬思ったが、彼の生い立ちを思い出して、口を継ぐんだ。
「また明日ね。」
その言葉と共に閉まった玄関のドアに、今世紀最大の深い溜息をついた。
何あれ。
何考えてるの、あの人。
横髪をぎゅっと握りしめた。間宮くんに触れられた髪。
自室に戻ってベッドに飛び込んで、枕に顔を埋める。
明日も来るのだ。だってまた明日って向こうから言ったから。
こんな時、男子高校生が何を考えているのか語れる友人がいれば……
「……。」
スマホのロックを解除して、メッセージアプリを開けて、[松山和巳(マツヤマ カズミ)]と書かれた名前をタップして電話をかける。
「もしもし?」
電話はすぐに繋がる。背後からは電車が到着を告げるアナウンスが聞こえている。
「杏里、久しぶりじゃん。」
「うん。」
和巳は私の高校時代の唯一の友だちだ。同学年では部員二人の茶道部だった。お互いに一人を愛し、一人の心地良さを知り、気が向いたら話をする。そんな仲だった。
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