同じ匂い

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4日目。 今日も並んで座って、課題を一緒にこなす。 私も間宮くんに自分のことを話すようになっていた。家族のこと、コミュニケーションに難ありなこと、一人が心地良いって思って今まできたこと。 「でも、間宮くんとは平気。言語化できないけど、それこそ匂い?」 間宮くんが先日、私がしたのと同じように前腕の辺りを嗅いだので「違うよ。」と突っ込んで、笑い合った。 間宮くんがいない日の会社の休憩時間が退屈になった。いつもの自分に戻れたはずなのに。 それでも、彼と関わって少しだけ変わったこともある。他の社員さんやパートさんに、前より少し大きな声で挨拶するようになったこと。 たったそれだけ。 なのに、この間、我が社の勤続年数最長のパートさんにチョコレートをもらった。「パソコン作業も大変でしょ。息抜きに食べてね。」と言われた。 「あ、来週から俺、1週間お休みなの。」 「えっ?」 「学校に行って、テスト受けないといけないから。」 「そっか……」 そりゃそうだ。テスト勉強しているだから、テストがあるに決まっている。 「新内さん、どうしてそんな顔するかな。」 間宮くんが困り果てて溜息をつく。 「再来週には会えるよ。辞めるわけじゃないんだから。」 間宮くんの指が私の横髪をすく。こうやって、この人は私の心を蝕んでいく。 蝕んで蝕んで…… この先はどうなる? 「……間宮くんってずっとバンドをやっていくんだよね?」 「うん。卒業したらここを離れる予定。ずっと同じ場所にいても成長しないから。」 「……応援してるね。」  やめよう。 これ以上、蝕まれるわけにいかない。 私にはやはりこう言うのは向かないのだ。 誰かを思ったりすること。
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