同じ匂い

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翌日、私は就職して初めて年休をとった。朝から支度をして、電車に乗って昼前に間宮くんの通う高校の前まで来ていた。 駅からすぐの立地に建つそれは、学校と言うよりは予備校のような6階建てのビルだった。 引かれたらどうしよう。 自分の行動が正しいのかも分からない。約束もしないで待ち伏せするなんて。 通信制高校なので、それぞれによって登校の時間は違うようで、入口の傍で待っている間も頻繁に人の出入りがあった。年齢層もまちまちで、だから、誰も佇む私に気にも止めない。 3時間近くそこにいた。昼ご飯も食べずに。だって、ここを離れた瞬間に間宮くんが来たらと思うと動けなかった。 そうして、4時間が過ぎようとした頃。ずっとここにいたら、そろそろ不審者で通報されるのかもしれないと、一抹の不安がよぎった時だった。 「新内さん?」 背後で声がして、腕を掴まれた。7日目は触れてくれなかったのに。 「あ、あの……」 「やっぱり新内さんだ。あれ?えっ?仕事は?」 「年休とった。……会いたかったから……」 言って後悔する。間宮くんがきょとんとした顔をしたから。 「い、今の忘れて。さようなら!」 手を振り解こうとしたら、それより先に掴まれた腕を引き寄せられて、抱きしめられていた。 「ま、間宮くん、見られてる。」 学校に行く人、帰る人の視線が注がれている。 「うん。知ってる。でも、離したらどこかに行っちゃうから。」 彼に抱きしめられて、彼の心臓の音を耳にした時、あって思った。 私と同じテンポを刻んでいる。少し速い速度。この距離にドキドキしていたのは私だけじゃなかったんだって思える速度。
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