小さな手

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「なぁなぁ、去年は何組だったの?」 最初に馴れ馴れしく話しかけてきたのは翔太だった。 「2組。」 俺は翔太の目も見ずに答えた。小学校3年の6月。クラス替えを終え、新たなスタートを切って2ヶ月が経ったクラスは、そろそろ新しいグループができ始めていた。 俺はそれのどこにも属さなかった。どうせ放課後は学校から塾に直行で、誰とも遊べないのだ。授業がない日は家で両親に出された課題をこなす。 そして、夜は母が作っていた食事を温めて食べる。そう言うことは、一応、きちんとしてくれていた。栄養が偏らないようにって。 そんな毎日。学校の授業は復習みたいなもので、何でも簡単に答える俺に、クラスのやつらは「すごい!」って尊敬の目をして見つめてきたけど、「仲良くなりたい!」って言うやつはいなかった。 面白くはなさそうなやつ。 そう言うレッテルを貼られたのだ。 だから、彼もすぐ飽きて話しかけなくなると思っていたのに。 「自分さ、すごいよな!いつも授業で間違わないじゃん。なんか頭の作り違うの?」 「……知らない。」 ほら、すぐそう言う話題になる。 「ちょっと手伝ってほしいことあるんだ。」 「手伝ってほしいこと?」 何? 「放課後、暇?」 「今日は……じゅ……暇だよ。」 あの日、俺は塾があるのに暇だと答えていた。 理由は今となっては分からない。でも、多分、放課後にクラスのやつに誘われたのが初めてだったから、心の片隅で思ったのだ。断りたくないと。
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