小さな手

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そんな両親が俺にお願いをしてきた。親戚の女の子の勉強を見て欲しいと。夏休みに入ってすぐのことだ。高校一年生の俺は、夏休み前には高校での生活を表面的に過ごす術を身に付けていた。 両親が望んだ進学校を進路に選んだ。これも自分の未来を守るためだった。本当は中学進学の時に、親は俺に中学受験をすることを求めた。でも、俺はそれに従わなかった。中学卒業までは真尋たちと一緒にいたかったから。 だから、自分から条件を提示した。もし、中学受験をしたら、俺はその中学では何もしないと。したいことがないからと。その代わり、地元の中学に行かせてくれたら、高校は難関高にきちんと進学する。最高の成績を取ってと。 両親はその提案を飲んだ。お陰で俺は三年間、ギターを触り続けれた。高校は四人とも自分の決めた進路を選んで、別々のところに進学した。でも、もう同じ学校かどうかは俺らには関係なくなっていた。目指すものを見つけたから。 今の高校では、誰にもバンド活動をしているとは話していない。ギターを持って登校なんてことはしたことがない。医者の息子、弁護士の娘、そんな生徒が五万といる学校だ。気のいい人は多いが、みんな必死なのだ。少しでも周りより良い成績をとりたいと。それは、俺も同じだった。この手から大切なものを失いたくなかったから。
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