小さな手

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俺に勉学以外求めない両親が、親戚の女の子の世話を焼いて欲しいと言ってきたのには、理由がある。 その子は母の妹、俺にとっては叔母の子だった。但し、血縁関係はなく、2年ほど前に再婚した相手の連れ子だった。 叔母は俺の両親とは違い学力至上主義ではなく、心優しい穏やかな人だった。だから、連れ子である彼女のことも受け入れた。そんな叔母の心に惹かれた現在の旦那さんは、一流企業に勤めていた。俺の父親とも取引のある会社だ。 自分がのし上がるためのパイプが父は欲しかったのだろう。その女の子の世話役の勤めを俺が果たすことで、恩を売りたかったのだと思う。   父はその子の面倒を見てくれれば、夏休みは夏期講習に行くこと以外は好きに過ごしていいと俺に言った。好きにバンド活動をしていいと。 だから、俺も彼女の相手をすることを受け入れた。 話によると、現在は中学一年生で、小学五年の終わりに学校でいじめられてから、不登校になっているそうだ。 いじめ自体は相手側の謝罪もあり解決はしているとのことだが、彼女の状態は良くならないらしい。部屋からは一応出られるが、外に出ることはできないそうだ。足が震えて吐いてしまうと。 中学は地元とは違う私学を選び、いじめていた子たちとは離れる道を選んだが、やはり家からは出れなかった。彼女の両親はこのまま彼女が周りとの関係を断つことに不安を感じ始め、まずは年の近い親戚との交流から始めてみようとのことで、俺を指名したのだ。
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