82人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
❇︎❇︎❇︎❇︎
紫音は今日もベッドに腰かけていた。手首の包帯は今日もある。
「また切ったの?」
てか、最後に会った日よりさらに痩せた気がする。叔母さんはそのことも心配していた。ここ数日、本当にほぼ何も食べていないのだと。
背負っていたギターを部屋の壁に立てかけるように置かせてもらい、ベッドに上がってこの間と同じように隣に腰を下ろした。
「連絡してって言ったでしょ。」
今日もペンで彼女の包帯に連絡先を書く。その時、ふと、枕元に置かれた使い古した包帯に目が留まった。
包帯には確かに黒いペンの文字の跡がある。
「これ、前に俺が書いた……」
「……。」
捨てずに置いておいたのか?
「いらない物じゃなかったの?」
「……。」
今日はTシャツの上にキャミワンピースを着ている。丈が短いので、足首が見えているが、折れそうなぐらい細い。
何か食べないと不味いのではないか。
このままじゃ本当に。
「叔母さんがご飯を食べないことを心配していた。」
「……。」
紫音の表情は変わらない。視線が合わない。
こんなこと言っていいのだろうか。数学の答えを見つけるよりも難しい。人の心に正解を探し出すこと。
「死のうとしてるの?」
「……。」
そう言ったが、もちろん返事はない。そうして長い沈黙が続いた。
突然、
「……死にたくない……」
消え入りそうな声で彼女は確かにそう言った。
「……生きるのも怖い……」
ひとつのパーツを見つけた気がした。
紫音は夜中にこの部屋で手首を切って、その後、自分で包帯を巻いているのだ。
生きることを本当に放棄しているなら、そんなことしない。無意識かもしれないが、彼女の体はまだどこかで生きたいって思っているはずだ。
その時、部屋のドアがノックされた。
「亜貴くん、あの、良かったら晩ご飯どうぞ。紫音ちゃんも食べれたら一緒に……。」
部屋のドアが開いて、お盆に晩ご飯をのせた叔母さんが姿を見せた。紫音が食べやすいようなコンソメ系のスープや冷奴、柔らかくなるまで煮込まれた鶏の照り焼きなどがのっていた。
「ここに置いておくから、食べてくれると嬉しいわ。」
叔母さんは紫音の部屋のセンターテーブルにお盆ごと食事を置くと、そそくさと部屋を出て行く。
なんとなく少し違和感を覚える。
紫音に遠慮している?接し方がぎこちないような感じがする。
最初のコメントを投稿しよう!