小さな手

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「おいで。」 俺が手を差し出すと、紫音は拒むことなく握った。 彼女の手を引いて、ベッドから降りて、隣同士で食事の前に座る。 ここまで食べていないなら、食事の匂いで吐くこともあるかもと思っていたが、それはなかった。 「何か食べられる物ある?」 「……。」 紫音だって、食べないと命が危ういのは感じているはずだ。でも、生きることも怖い彼女に箸を持って食べると言う行為自体が負担なのかもしれない。 「食べさせようか?」 彼女の箸を手に取り、冷奴に箸を入れて、紫音の口元まで運ぶが、彼女は食べようとはしない。虚な目はこの間と変わらない。 もうお腹が空くという感覚も薄れているのかもしれない。 「いいの?このまま食べないと、君の命は本当に危険だと思うけど。」 「……。」 「でも、俺は死にたくないって言う君の声を守りたいって思っている。」 もう会いたくないって言われても構わなかった。そうなったら、夏休みは塾に缶詰めだが、このまま彼女の意思で食べることを待てる時間はない。 下層からのスタートである俺と彼女の関係が後退することもない。 俺は箸にのせていた冷奴を自分の口に入れた。そして、少し咀嚼してから彼女の唇を塞いだ。 彼女は拒まなかった。 だから、ゆっくりと唾液と混ぜて彼女の口の中に食べ物を流し込んだ。 「……食べれた?」 紫音は静かに頷いた。 「まだ食べる?」 その言葉にも頷いた。 だから、俺はもう一度、口に冷奴を含んで彼女の口の中に流し込んだ。
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