小さな手

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紫音は俺の口から冷奴は全部食べた。相変わらず話さないけど、虚な目に僅かだが生気を見た気がした。 「スープも飲む?」 スプーンを手に取って、紫音の右手に握らせてみたら、紫音はそれを拒絶することなく握った。だから、俺は軽く手を添えて、紫音の口に運ぶ手伝いだけしたら、彼女はすごく時間をかけたが自分で食べた。 「頑張ったね。」 彼女の頭を撫でてから、俺も自分のスプーンを手にした。 「一緒に食べようか。」 紫音のペースに合わせて、一緒にスープを飲んだ。「美味しい。」と口にしてみると、小さく頷いたようにも見えた。 完食はもちろん無理だが、紫音は冷奴とスープ半分は食べた。 食事を片付けに来た叔母さんは、これでもかって言うぐらい俺に感謝の言葉を浴びせた。 「亜貴くんがいなかったら、もう本当にダメだったと思う。」 今にも泣き出しそうな叔母さんに俺はただ「食事、美味しかったです。ご馳走様でした。」とだけ言った。 この人は紫音を心配しているのに見ようとしない。 彼女の中に入ることを恐れているのかもしれない。 優しい人だからこそ、自分の余計な一言で死なれでもしたらと思っているのかもしれない。 食事を終えたら、もう20時になろうとしていた。明日は朝から夏期講習がある。帰って残っている課題を片付ける必要があった。 「そろそろ帰るけど、何かあったら連絡して。それと、明日からも今日みたいに少しは食べること。」 「……。」 次の約束はまた三日後。 本当は明日も会いに来た方がいいのではと思うが、明日は父親の仕事が休みだそうで、紫音の傍にいたいと言っていると、叔母さんから聞いた。 家族の時間を邪魔してはいけない。だって、紫音はここで家族と一緒に暮らしていかなくてはならないのだから。
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