小さな手

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❇︎❇︎❇︎❇︎ これで終わりと。 紫音との約束の日の前日。日付が変わる前に今日の学校と塾の課題を片付けた。学校も学校で山のような夏休みの課題を出してきている。 進学校らしいと思う。教師たちの口癖は「一年生の時から受験は始まっている」だ。 デスクから離れて、自室の出窓を開けた。夜道を照らす満月の強い光にギターを手にしていた。 ヘッドフォンを耳にあててから、感覚で音を鳴らす。鳴らしてから、白紙の紙に無造作にコードを書いて、思いついたメロディをのせていく。 亜貴の作曲の仕方は独特で、途中段階だと解読できないと礼央に言われたことがある。 紙の空いているスペースに思いつくままに書いて、後で結んでいくので、どことどこが繋がっているのか理解できないそうだ。 そうやって、指で弦を鳴らしては書く作業に没頭していた時だった。 スマホが鳴った。 画面に連絡してきた相手からのアイコンが映る。 青い空のアイコン。 アイコンの下にカタカナで「シオン」と表記されている。 「いや、ちょっと待って。」 慌ててベッドフォンを外してスマホを耳に押し当てた。 「紫音?」 「……。」 「大丈夫?」 「……。」 泣いてる? 耳を澄ますと、微かに嗚咽を吐く様子が感じられる。 「……い……痛い…手…」 彼女の声が聞こえる。 「切ったの?」 「……。」 今すぐ会いに行けたらいいのにと思っていた。会いに行って彼女の隣で彼女の望むことをできたらって。 「ガーゼとかハンカチある?あと包帯と……」 電話越しだとそんな確認しか結局できない。 「……もうこのままでいい……」 「紫音!」 強い声が出ていた。このままでいいってなんだよ。 「今から行く。だから、傷口は抑えて待ってて。」 「……。」 ここから車で20分程の距離。 近いような遠いような距離。 それでも……
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