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これで終わりと。
紫音との約束の日の前日。日付が変わる前に今日の学校と塾の課題を片付けた。学校も学校で山のような夏休みの課題を出してきている。
進学校らしいと思う。教師たちの口癖は「一年生の時から受験は始まっている」だ。
デスクから離れて、自室の出窓を開けた。夜道を照らす満月の強い光にギターを手にしていた。
ヘッドフォンを耳にあててから、感覚で音を鳴らす。鳴らしてから、白紙の紙に無造作にコードを書いて、思いついたメロディをのせていく。
亜貴の作曲の仕方は独特で、途中段階だと解読できないと礼央に言われたことがある。
紙の空いているスペースに思いつくままに書いて、後で結んでいくので、どことどこが繋がっているのか理解できないそうだ。
そうやって、指で弦を鳴らしては書く作業に没頭していた時だった。
スマホが鳴った。
画面に連絡してきた相手からのアイコンが映る。
青い空のアイコン。
アイコンの下にカタカナで「シオン」と表記されている。
「いや、ちょっと待って。」
慌ててベッドフォンを外してスマホを耳に押し当てた。
「紫音?」
「……。」
「大丈夫?」
「……。」
泣いてる?
耳を澄ますと、微かに嗚咽を吐く様子が感じられる。
「……い……痛い…手…」
彼女の声が聞こえる。
「切ったの?」
「……。」
今すぐ会いに行けたらいいのにと思っていた。会いに行って彼女の隣で彼女の望むことをできたらって。
「ガーゼとかハンカチある?あと包帯と……」
電話越しだとそんな確認しか結局できない。
「……もうこのままでいい……」
「紫音!」
強い声が出ていた。このままでいいってなんだよ。
「今から行く。だから、傷口は抑えて待ってて。」
「……。」
ここから車で20分程の距離。
近いような遠いような距離。
それでも……
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