小さな手

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礼央みたいに原付があればもっと早く会いに行けるのに。自転車に跨ってそんなことを思う。 ない物ねだりだ。 原付、バイクは校則で所持はもちろん、免許を取ることも禁止されている。退学は免れても停学にはなるだろう。 自分を守っているようにも思う。 深夜の車道を走り続けてそんなことを思う。 紫音にとって、自分は血は繋がっていなくても、いとこであることに変わりはない。 彼女のことをここまでして心配してしまうのは、やはり自分の自由を守りたいからなのだろうか。 それとも…… 1時間は自転車を走らせて、彼女の家の前に着いたら、さっきまで考えていたことは、全て消えてしまった。 サンダルで門の前にたたずむ紫音がいた。 手首に雑に巻かれた包帯。 視線が合わない。 彼女の体は震えていた。 そんな彼女を見たら、止められなくて、自転車をなぎ捨てて、抱きしめていた。 「何やってるの。何でこんな……」 自分を傷付けるんだよ。痛くないわけないのに。 「……私がいなかったら……お父さんも梢さんも幸せに暮らせるのに。」 梢(コズエ)さんと言うのは、俺の叔母の、紫音の義母の名前だ。 紫音は俺の腕の中でそれだけ言うと、小刻みに体を震わせた。 空には雲に半分隠された満月がぼんやりと浮かんでいた。
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