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門の前に並んで座って、紫音の包帯を解いた。傷口を初めて見た。数カ所に渡ってカッターかナイフで切ったであろう細い線がある。
そして、傷を見る限り古いものもある。
「いつから?」
「……学校行けなくなってから。」
つまり、かれこれ1年はしてるってことか。
「貸して。」
彼女の手から包帯を取って、傷口が完全に隠れるようにして巻いた。
細い手首。少し力を入れたら折れてしまうのではないかと思うぐらいの。
包帯を巻ききって、端をリボンの形にして結んだ。
「……この包帯がもう二度と解けませんように。」
そう言って、リボンの上に自分の掌をのせた。
「……。」
紫音の目が大きく見開いた。
「そうしたらもう二度と紫音が自分を傷付けることもないでしょ。」
その見開いた目に一筋、雫が流れた。
それはすごく綺麗な涙だった。
俺と紫音は何も話さずに1時間近くそこにいた。でも、これ以上は同じ時間を過ごすことは難しかった。
日が昇り朝になる。
お互いに自由になり切れない身だ。
「部屋に戻りな。今日の夕方にまた来るから。」
彼女にそう告げたが、紫音は小さく首を振った。
「……亜貴くんがいないと怖い……」
あぁ、初めて自分の名前を呼んだなぁと思ってから、俺は紫音の肩を抱き寄せて、体に腕を回した。
「うん。分かった。じゃあ、毎日ここに来れるように、叔母さんにお願いしとく。」
「えっ?」
「連絡もいつでもしていい。」
「……どうして?どうしてそんなに私にかまうの?」
どうして?どうしてだろうか。
「……ごめん…正直分からない。」
「……。」
「でも、いつか君が笑っている姿が見られたらいいなって思ってる。そのために出来ることがあるならしたいって。」
「……。」
「ほら、部屋に戻って。無理しない方がいい。」
夏とは言え、夜風にずっと当たっていれば、体力は幾分は削られるだろう。
「……亜貴くん…あの…き、気をつけてね…帰り道。」
「ありがとう。」
紫音の立ち上がるのに手を貸し、彼女が部屋に入るのを見送った。
何時間かしたらまた彼女に会えると思いながら。
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