小さな手

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会うなと言われて、はいそうですかって言えるわけがない。 紫音に何度も連絡した。電話もメッセージも。 ご飯は食べているのか、手首は大丈夫か、不安なことはないか。 でも、返事は一度もなくて、そのまま2週間近くが過ぎた。夏休みも中盤にさしかかり、このまま会えずに新学期を迎える気もしていた。 「元気ないね。」 真尋にそう言われたのは、スタジオで練習していて、中休みに入った時だった。最後に紫音に会った日に作った曲をみんなでアレンジしている最中だった。 「そう?」 「うん。何かあった?親戚の子?」 三人には紫音の話をしていた。練習の後に彼女の家に行く日もあったから。 でも、何かと言われても俺の身には何もない。ただ一人の女の子が去って行ったってだけの話。 その時、スタジオの入口近くに置いていた鞄から着信音が鳴った。 「亜貴ー、鳴ってるよ。」 礼央がそう言って俺に鞄を差し出してくれた。カバンを開けて、着信の相手を確認して、出ることに躊躇する。 叔母さんから? 「出ないの?」 翔太に促されて、俺は通話ボタンを押しながら、スタジオを出た。 スタジオの前は長い通路になっていて、一番奥に外に通じる扉がある。扉は上の一部分がガラス製の小窓になっており、そここら外の光が差し込んでいた。
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