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「もしもし?」
「あぁ、亜貴くん、良かった。今、時間ないかしら?」
自分から関係を断ち切ったと言う負い目があるからだろうか。叔母さんの声はいつもより低い。
「今はちょっと……」
俺も子どもだと思う。そっちが離れろと言ったんだろうと思うと、素直にどうしたのか聞けない。
「そうよね、忙しいわよね……ごめんなさい。」
叔母さんからの電話が切れると思った瞬間だった。
俺の腕を強い力で掴む手があった。そして、横暴としか言えないやり方で、スマホを奪いとる男がいた。
「どうしましたか?」
「……真尋……。」
俺のことなど無視して、真尋は叔母さんに亜貴の友だちだと伝え、事情を知りたいと話している。
「えっ?入院……」
入院?
「ちょっと貸して!」
真尋からスマホを奪い返していた。
「入院って何?」
「あぁ……紫音ちゃんね、亜貴くんがいなくなってから、全くご飯を食べなくなっちゃって。それで一昨日、ベッドから起き上がれなくて……」
叔母さんの啜り泣く音がする。
「夫が救急車を呼んで、検査を受けたの。その結果、栄養失調だろうって。今は点滴から栄養をとってるんだけど、その点滴の管を抜くの。」
「そんなことしたら……」
本当にもう戻って来れなくなる……
「どうしてって私、強く問い詰めてしまったの。そしたら紫音ちゃん言ったわ。亜貴くんと会えないならもう生きたくないって。」
「……。」
「亜貴くんは傷だらけの私を初めて逃げずに見てくれた人だって。」
「……紫音に今から行くって伝えてください。」
電話を切ったら真尋と目が合った。
「ごめん、練習いい感じだったのに。」
「大切なものを見誤るな。今はそんなこと気にする時じゃないだろう。」
「そうだよ!叔父さんに連絡しといたよ。」
「車、出してくれるってさ。」
いつの間にか礼央と翔太も傍にいて、バシバシと背中を叩いてくれる。大丈夫だよと言いたげに。
「ありがとう。行ってきます。」
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