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「面白い弟くんだね。」
午後3時のアイスクリーム店。二人それぞれアイスクリームを注文して、向かい合わせの席に座って食べた。
利希が松田くんに会いたいって言っている話をしたら大笑いされた。ただし、雑誌を見て洋服を考えていたって言う話は伏せて。
結局服は雑誌の情報はスルーして、プリーツのロングスカートにケーブル編みのざっくりとしたニットを着た。秋の終わり、冬の気配を感じるこの季節なら、気温的にはちょうど良い装いではある。
松田くんは爽やか系にお似合いの白いロンティーにベージュのジャケットを羽織って、黒のパンツを身に纏っている。
「もう、大変なんだよ。私が自分の部屋に入ったら怒るくせに、自分は我が物顔で私の部屋で宿題をしたりする時もあるもん。」
「きっと舞香のことが好きなんだよ。」
松田くんに舞香と言われると胸が細い針で突かれたように痛む。松田くんが下の名前で呼ぶ女の子って実はいないのだ。桜ちゃんとも仲がいいけど、「神谷」っていつも呼んでいる。
「そろそろ行こうか。」
松田くんが席を立ったので、私も後に続く。先払いのお店だったので、支払いはもう必要ない。今日はお昼過ぎに駅で落ち合った。前半は私が行きたいところや場所を決めて、後半は松田くんにお任せにしている。
私はずっと行きたいと思っていたイラストレーターの絵画展があって、今日が最終日で、そんなところでも良いかなって聞いたら、松田くんは快諾してくれた。
そうして中休みにアイスクリームを食べて、これから松田くんの行きたいところに行くのだ。
お店を出たら彼から手を差し出されるので、自然と繋いでしまう。
さらりとそう言うことしないで欲しいって本当は言いたい。
これ以上、好きになったらダメなのに。
でも……
「お誕生日おめでとう」は言われていないから。
彼は知らない。今日が何の日か。
残念な気持ちが皆無ではないけど、これでいいのだ。ここで、誕生日でも祝われたら、いくつになっても自分の誕生日が来る度に彼のことを思い出してしまうようになってしまう。
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