小さな手

21/23
前へ
/137ページ
次へ
紫音の病室を出て、俺は談話室で叔母さんに出会った。俺が病室を出る時には、紫音は抵抗せずに看護師さんの言うことを聞き、点滴を打ってもらった。 そして、少し眠りたいと言ったので、部屋を出たのだ。 「今日はありがとう。本当に。」 俺にお礼を言う叔母さんも随分と顔色が悪い。頬も痩けている。 「どうして紫音のことを避けるの?」 単刀直入に聞いた。回り道をしている時間はない。 「避けるって……」 丸テーブルを挟んだ向かい合って座っていた。叔母さんは俺とも目を合わせようとはしない。テーブルに視線を落としたままだ。 「ずっと違和感を感じていた。紫音にかける言葉は優しいのに、他人行儀だって。」 「……。」 「このままじゃ紫音は治らないよ。だって、彼女はあなたとあなたのご主人と三人でこれからも暮らしていかないといけないのに。」 「……分からないのよ!」 談話室にいた他の人が振り返るぐらいの、空気を斬る高い声だった。 「夫とは結婚相談所で知り合ったの。亜貴くんも知っていると思うけど、私、ずっと家族が欲しかったの。でも、結婚に関してはご縁がなかったから、最後の頼みの綱で……」 そのことは母もよくぼやいていた。梢ったら、このまま結婚しないのかしらと。 「そこで彼に出会って、本当に素敵な方で、お互いに相性の良さも感じていた。でも、子どもがいるってことだけが気がかりだったわ。それでも、何回か紫音ちゃんと出会って、すごくいい子だと思えたわ。この子の母親になりたいって思えるぐらい。」 「じゃあ何でもっと真剣に向き合えないの?」 「だって、あの頃の紫音ちゃんはもっと溌剌としてたんだもん。それが、結婚を機に学校を転校することになって、その学校でいじめられて……私のせいだわ。」 叔母さんは両掌で自分の顔を覆って、肩を震わせて泣いていた。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加