始まりのキス

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ご機嫌のまま家のドアを開け、母と娘の二人暮らしにはあり得ない男物のスニーカーが目について溜息をつく。 玄関からリビングに通じる廊下をわざと大股で歩いて、勢いよくドアを開けた。 「ちょっとお母さん!」 と、声をあげたが母の姿はない。代わりにリビングの中央に陣取るソファーに長身の男が眠っている。二人がけのソファーの長さの方が男より短いので、踝から先がソファーからはみ出している。 「本当に信じられない。」 耳を澄ますとシャワーの音が聞こえ、母がお風呂に入っていることが分かる。 「翔太!」 お腹の辺りを叩いてみるが、返事はなく寝息がするだけ。 彼、相野翔太は色々あって、我が家に時折やって来る男子高校生だ。私とはかれこれ8年近い付き合い。彼が小学2年生、私が中学3年生の頃からお互いのことを知っている。 「お母さんは翔太に甘過ぎるんだよ。」 男の子が欲しかったから。それに、翔太がいたら、番犬代わりになるという理由。 この見た目だ。母が可愛がるのも分からんでもない。 背も高いし、体付きもしっかりしてるし、顔もいい。この春に高校一年生になり、校則が緩いこともあって、髪まで染め出して、本当に今時の若者って感じがある。 モテるんだろうなぁー、こいつ。 ソファーの傍にかがみ、翔太のツーブロックの髪の毛先に指を触れさせる。 昨日は確か学校終わりにバンドの練習に行ってたはず。その後、そのまま真尋くんの家に泊まったとか……。 「雫?」 ゆっくりと翔太の瞼が開く。 「あ、ごめん、起こした?」 「ううん。おかえり。」 「た、ただいま。」 翔太はソファーから起き上がり、ポケットからスマホを取り出す。 「あー……ちょっとごめん。」 立ち上がって、電話をかける。 「もしもし……ハル?」 相手はやはりハルちゃんだ。翔太が高校で出会った人の中で一番親しそうな相手。もちろん顔は知らない。翔太が電話をかける相手はいつもハルちゃんだと言うことしか。 「その件?ハルに任せる。」 多分、ハルちゃんは翔太の彼女だと思う。
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