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初めて翔太と出会ったのは、もう8年も前のことだ。
出会う2週間前、私と母は大切な人とお別れをした。
病気で1年近く闘病生活を送ってた父が他界したのだ。私も母も心にぽっかりと穴が空いてしまった。
亡くなることは最初から医師に告げられていたけど、お別れがこんなにも辛く耐え難いものだと思えなかった。
それでも、母は泣いてばかりいられないわよね、お父さんが悲しむわって言って、以前から勤めていた保育士の仕事を再開した。
その当時、高校受験の年だった私だったが、母のように大人にはなれなくて、母の仕事を家で待つ間、悲しみや不安、恐怖の感情に支配されて、いつも一人で泣いていた。
学校にいる時はまだ大勢の人の中にそれらの感情を紛らわすことができたけど、一人になると、父との別れの辛さ以外に母にも何かあったらとも思ってしまうのだ。
そんな時だった。
16時過ぎに学校から自宅に帰って来た時だ。賃貸の前の道路に一人の男の子がいた。地面に白い石で落書きをしていた。
最初の印象は「何この子。」それだけ。
横を通り過ぎた時に、一瞬合った目は、すごく冷たい瞳の色をしていた。
でも、声なんてかけずに家に帰った。
そして帰って、その日も私は気分が優れず、自室のベッドでうつ伏せになっていた。
受験勉強もしないといけないのは分かっているけど、体も心もついてこない。お母さん、早く帰って来てと ばかり思っていた。
17時、18時と時間が過ぎ、もうすぐ母が帰ってくると思って体をベットから起こしたら、ベッドの傍の窓から、落書きをしている男の子が見えた。
まだいたんだ。
日は暮れ始めている。どう見ても小学校低学年。家に帰らなくていいのだろうか。
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