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そんなある日だった。
今日はうちに来る予定の翔太が、連絡もなくいつもの時間になっても現れなかったのだ。
仕事中の母に連絡してみると、「他に用事ができたんじゃない?」と呑気に言っていたが、私は翔太の身に何かあったのでは不安になっていた。
当時、彼は12歳の小学6年生。私は19歳の大学1年生。その日は午前中の講義でバイトもなく、昼過ぎには家に帰ってきていた。昨日、翔太からメッセージアプリに[明日、学校が終わったら行く。]と連絡がきていたのに。連絡がきていたから、友だちの誘いも断って帰ってきたのに。
本人の家に行っても翔太はいなくて、近所を探しても見つからなくて、電話もメッセージも返事はなくて。
やっぱり翔太の身に何か……
そんな時、前に翔太に教えてもらったスタジオの名前が頭に浮かんだ。他に行く場所としたらそこしかない。でも、いつもは先に教えてくれるのだ。「真尋のとこに行く。泊まってくる。」とか「晩ご飯を食べてくる。帰りは叔父さんが送ってくれるから。」とか。でも、今日は何もない。
何もないけど、他にあてもない。
私は地図アプリにスタジオの名前を入力して、電車に乗ってそこに向かった。
冬の陽は沈み、もう18時になろうとしていた。頬を刺す北風がやけに冷たく感じて、翔太はそこにいないと言っているようだった。
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