始まりのキス

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スタジオに着いたら、奇跡とでも言うべく、ちょうどスタジオから出てくる翔太たちの姿があった。 翔太の親友とも呼べる三人を初めて見た。 初めて見て、あぁ自分はこの子のことを知った気でいただけで、何も知らなかったんだと思わされた。 音楽もただの遊びだと思っていたけど、この子たちの顔を見たら、遊びなんかじゃないって悟らされる。今の今まで脇目も振らずに演奏していたのだ。こっちの連絡すら気付かないぐらいに。 だって、顔が違う。集中し過ぎて、エネルギーを使い切って、もう何も考えたくないって顔をしている。 「しょ、翔太……」 声をかけるのも一瞬、躊躇った。翔太が別人にしか見えなかったから。 小学生なのに。 近所の生意気な子のはずだったのに。 何でこんなに心臓鷲掴みされているのだろう。 「えっ?雫?何でここに……」 信じられない。 翔太に声をかけてもらった途端、ぼろぼろと言う言葉が相応しいぐらいの量で、私の目から涙が落ちる。 「……翔太、今日来るって言ってたから待ってた。でも、全然来なくて……お父さんみたいにいなくなるんじゃないかって……それで……」 ここで泣いてしまう自分に自分が一番理解できていない。 それなのに…… 「ごめん。」 その一言が返ってきて、翔太は私を抱きしめた。 「バンドの練習が楽しくて、連絡し忘れた。本当にごめん。」 相手は小学生なのに。何でこの子の腕の中がこんなに居心地がいいのだろう。   ……あれ? 翔太の身長が私と変わらなくなっている。 腕も出会った頃に比べたら逞しくなって、顔も子ども特有の幼さの片鱗はもうない。 いつの間に……?こんなことになった……? 翔太の変化に気づいたら瞬間、なぜか体が熱くなった。 「雫、帰ろう。」 耳元で声がして、堪え切れずに取れるぐらいの勢いで、首を左右に振った。 「みんなと一緒に過ごしたいんでしょ?」 「雫と帰りたい。だって、迎えに来てくれたし。それに、心配してもらえたのも嬉しかったから。」 「……。」 収まれと願った。 収まれこの心臓の鼓動。
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