始まりのキス

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自分は翔太に恋をしたのだと思った。 が、それはいっ時の気の迷いってことで片付けられて、幕を閉じる。 大学の友だちにそれとなく聞いてみたのだ。講義と講義の間の休憩時間に。 「7歳下ってどう思う?」 と。 「7歳下!?それっていくつ?」 「12歳。」 友だちが慌てて私の額に自分の掌をあてた。 「熱でもあるの!?12歳って小学生じゃん。そんなのと恋愛なんてできるって本気で言ってる?」 「と、友だちが悩んでたから聞いてみただけ!私は年上派なんだから。」 こんな反応をされて、自分の話だなんて言えるわけがない。 「じゃあ、その友だちに伝えといて。そんな餓鬼と恋愛して何が楽しいのって。」 「……。」 誰が聞いても同じことを言うだろう。 そもそも、そんな子どもに手を出して、社会的にも許させるわけがない。 あの心臓の音はきっとその場の雰囲気に飲まれたのだ。 翔太は弟。 血の繋がりなんて関係ない。 私と母にとって大切な家族の一員。 それだけ。 それなのに 私は自分の家と翔太の家の中間地点で翔太の背中を見つけて、 「待って!」 と声をかけていた。久しぶりの全速力に息がぜぇぜぇとしている。 「……雫……追いかけて来たの?」 「だって、ケーキ、一緒に食べたかったから。翔太と食べた方が美味しいもん。」 あの時と変わらない。今も私は翔太を自分から探して捕まえに行っている。 「分かったよ。」 翔太はそう言って方向転換した。我が家に戻ってくれるのだろう。
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